2011年05月27日

永訣の朝 宮沢賢治

けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)*
うすあかくいっそう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふってくる
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがったてっぱうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちょ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになって
わたくしをいっしょうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまっすぐにすすんでいくから
   (あめゆじゅとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
……ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまってゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまっしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらっていかう
わたしたちがいっしよにそだってきたあひだ
みなれたちゃわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)*
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
ああ あのとざされた病室の
くらいびゃうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらぱうにも
あんまりどこもまっしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
   (*うまれでくるたて
    こんどはこたにわりゃのごとばがりで
    くるしまなぁよにうまれでくる

おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが兜卒の天の食に変つて
やがてはおまへとみんなとに
聖い資糧をもたらすことを
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ


*あめゆきとつてきてください
*あたしはあたしでひとりいきます
*またひとにうまれてくるときは
 こんなにじぶんのことばかりで
 くるしまないやうにうまれてきます


「心に響いた詩を教えてください」
というLiveDoor共通テーマです。
ちょっと詩が長すぎるんですけど、全文を引用してみました。

特に心に残ったのが
まがったてっぱうだまのやうに
という太字にした部分の表現です。
小学校で習ったはずなのに、いまだに明確に覚えているくらい。
解説を読むと
「まさに妹が亡くなろうとしているときに、何もできない賢治。
そんな戸惑いの中で「雪を食べたい」という娘の願いをかなえるべく、病室を駆け出す様子を描写した表現」
だそうです。

あとは、後半の太字
うまれでくるたて
こんどはこたにわりゃのごとばがりで
くるしまなぁよにうまれでくる

方言でわかりにくいですが
「今度産まれた時は自分のことばかりで苦しまないで、人のためにも苦しみたい」
という意味らしい。(ちょっと意訳が入っているような気もしますけど)

26歳の兄(賢治)と24歳で亡くなった妹。
死に際してのお互いの思いやる優しい気持ちがじ〜んときます。

久しぶりに読むと、やっぱりいい詩ですね。
宮沢賢治の文章って読みにくくて敬遠しがちだったんですけど・・・
改めて読んでみようと思いました。

永訣の朝―宮沢賢治詩集 (美しい日本の詩歌 11)
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at 10:01│Comments(15)TrackBack(0) 読書 
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この記事へのコメント
1. Posted by りい子☆   2011年05月27日 10:33
宮沢賢治、私も以前は、敬遠していました。
でも、子供が生まれてから一緒に読むようになり、
本も何冊か、そろえました。この本もあります^^

「永訣の朝」は、その情景が思い浮かびますよね。
わからない方言もたくさんありますが、
それでも、心にずっしりと響いてきますね〜。
2. Posted by chianjyu   2011年05月27日 11:29
今、娘の毎日の音読が宿題が
「雨ニモマケズ」で、
この詩と少しかさなりました。

音読を聞くたび、自分はまだまだだな〜
と反省です・・・。
3. Posted by みゆきん   2011年05月27日 11:39
声にだして最後まで読みました
2度、舌を齧った(┯_┯)
宮沢賢治の銀河鉄道、新幹線が止まります
何もない所、滅多に人も降りないのに新幹線の駅があります。
宮沢賢治恐るべし
いや・・・岩手の元総理・・恐るべし(^-^;
4. Posted by mu.choro狸   2011年05月27日 16:01
今回の震災で海外で読まれている宮沢賢治の詩。
当時はみな貧乏で若くして亡くなるというのは珍しくなかったのかも知れないけど、今の時代読み直すとジーンと心に響くもんですね。
まがったてっぽうだまのように・・・
上手い表現だね。妹のためにすっ飛んで出たんだね。
5. Posted by くろこ姫   2011年05月27日 16:16
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

これは、どういう意味ですか??
何度、読んでも、わからないのに、
妙に、気になるものですから・・

24歳で逝ってしまうのですね?
本当に、じーんとくる詩ですね!
6. Posted by ゆっきー   2011年05月27日 18:01
はあ…お互いを思いやる、素晴らしい兄妹ですね…。
うちは全然ダメダメ兄妹なもので…。
7. Posted by ティーグ   2011年05月27日 18:19
うう、いかんいかん。難しい文章を読むと頭痛が・・・(滝汗;)
8. Posted by てっちゃん   2011年05月27日 21:20
はくがないので
何かの呪文かと 思っちゃいました(笑)
9. Posted by ↑邑   2011年05月28日 00:28
宮沢賢治は大人になってから読むと味わい深いです。
10. Posted by o*hana   2011年05月28日 08:30
岩手県花巻市の出身ですよね
小学校のころ住んでいたので
宮沢さんはなんだか親しみがわきます
生家はクルマで少しのところでした。。。

高村幸太郎さんも花巻にいらっしゃいました
妻、千恵子さんの法要はたしか花巻でだったような

みなさん震災を悲しんでらっしゃいますよね
11. Posted by さんぴん太郎   2011年05月28日 10:53
宮沢さんの文章って僕も敬遠してしまっていますね。
たしかに今なら読み解ける気がします。
チャレンジしてみようかなー
12. Posted by    2011年05月28日 15:24
あれ?
コメントしたつもりが・・・

子供の頃、銀河鉄道の夜を読んでから、一時期宮沢賢治の本を読んでいたのですが、いつの間にか読まなくなり、今では敬遠してしまってます
13. Posted by はやちゃん   2011年05月28日 16:23
山形で育った自分です、大抵の東北弁は理解できます(残念ながら津軽弁だけは・・??) 
始めてこの詩を読んだ時も、すぐに理解できました!
東北弁の言葉や思いがストレートに伝わります。

そして、涙なくしては読めなかった事を覚えています。
14. Posted by kuro   2011年05月28日 17:06
こんにちは。
宮沢賢治の作品というのは私は読んだことがないです。
こうやってじっくり読むと、叙情詩でありながら叙事詩でもありますね〜。

<うまれでくるたて
こんどはこたにわりゃのごとばがりで
くるしまなぁよにうまれでくる>の訳。
う〜ん、方言が入っているのでよくわかんないけど、
「今度産まれてくるときは、苦しむことが無いように産まれておいで」
と解釈したのだけど・・・・
15. Posted by 狼皮のスイーツマン   2011年05月29日 07:11
5 宮沢賢治の伝記では
有名なくだりで
昔の国語の教科書に掲載され、
同伝記を原作とした
緒方直人主演の映画もあります

夢枕獏『上弦の月を食べる獅子』においては
そこを全文引用しています

なんとまあ、これほどに
同場面が人の心を打つ様子
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